Vol.1 民謡のブスプーを追いかけて

今では遠くなってしまった民謡に描かれる八重山の原風景。でも、少し視点を変えてみると何気ない日常のなかで出会えることも。八重山民謡のブスプーを追いかけつつ感じた、日々のこもごもをご紹介します。文末には音楽配信サイトのURLや、許可を頂いたアーティストの演奏映像をご紹介予定です。コラムと併せて、お楽しみいただければ幸いです。

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令和2年4月、石垣島で音楽配信活動を行う「やいまぬむじか実行委員会」という任意団体が設立されました。「やいまぬむじか」とは「八重山の音楽」という意味の造語です。筆者も所属するこの団体は、新型コロナウイルスの世界的流行に伴い活動自粛を余儀なくされた八重山のアーティストや音響などの裏方スタッフと共に、インターネットを通じて新しい生活様式に則した表現方法を模索して参りました。

10回目の配信には、活動の新たな試みとして、国指定有形文化財・宮良殿内での八重山民謡ライブを企画・収録。11月3日(文化の日)に合わせYoutubeにて無料公開しました。ご協力頂いたのは、沖縄県無形文化財 (八重山民謡)保持者である大工哲弘先生、奥さまで琴奏者の大工苗子先生です。

さて、撮影地近隣には現在保育所が開かれ、午後になるとお昼寝を終えた子どもたちが園庭へと駆け出します。木と漆喰の香り立つ宮良殿内敷地内に、民謡の調べと賑やかな歓声が響くようすは、かつての八重山の日常にタイムスリップしたかのように感じられました。思えば小さい頃、耳が遠い曾祖母が大音量でかけっぱなしにしていたのは八重山民謡の〈鷲ぬ鳥節〉だったのでしょう。スピーカーを通して増幅された男性の唄者の旋律は、まるで地響きのように身体に響き、少し怖かったのを憶えています。また、寝苦しい夜にクーラーの効いた裏座へ行くと、祖母が眠るまで〈月ぬ美しゃ〉を歌ってくれました。

今まで、民謡の世界は格式高く、三線や踊りの稽古をしてこなかった筆者のような素人は、外から眺めているのが正しいのだと勝手に思い込んでいました。しかし、意識するしないに関わらず、現代のわたしたちの生活にも民謡は溶け込んでいるのです。

電話をかけるように唄を贈り、眠る前に子どもをあやし、農作業時には掛け合いをしながら励まし合い、恨みつらみも茶化さねばやっていられぬと陽気に振舞い、男女の駆け引きは真剣に楽しむ。譜面をなぞるだけでは分からない、古謡に滲む悲喜こもごも。知らない国の歌を少しずつ紐解いていくように、音楽民族のコラムが八重山の音楽を身近に感じられるひとつのきっかけになれば幸いです。


~民謡サブスク紀行~

まずはサブスクで気軽に聴いてみませんか?
コラムに関連する八重山民謡:〈鷲ぬ鳥節〉・〈ぼすぽう節〉

※サブスク:サブスクリプションの略。ここでは、配信サービスの意で用いています。

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「鷲ぬ鳥節」
八重山古典民謡の代表的な曲。
元旦に若鷲が朝日に向かって飛び立つようすが表現されており、結婚式などのお祝いの席では踊りとセットで親しまれています。金銀の扇子を鷲の羽根に見立て、ゆったりと優雅に舞うようすは印象的。筆者も学生の時に学校で習ったのですが、ハイパースローモーションのような動作に扇子のプルプルが抑えられず大変でした。

元々は「鷲ぬユンタ」という古謡を元に大宜味信智(1797年~1850年)が節歌へ作り変えたもので、なんと10番まで歌詞のある超大作。某自然動物ドキュメンタリー番組さながらに鷲の子育てを追う内容なのですが、クライマックスである8番から10番までを習うことが多いため、本来の1番から7番は知らない島の人も多いはずです。

現在ユーグレナモールとして親しまれているアーケード商店街で、何やら大木から飛び立たんとする若鷲のモニュメントを発見したらば、そこがまさに、この唄の発祥の地です。8番から10番の歌詞の場面です。石垣島へ訪れた際は、市場の散策がてら探してみてくださいね。

 

→曲を聴いてみる:パーシャクラブ「鷲ぬ鳥」アルバム月夜浜より

 

「ぼすぽう節」
宮良殿内8代目当主・宮良当演(1775-1831)による作詞作曲と伝えられ、白保節と共に白保村を代表する唄としても有名です。褌のような長い布が尻尾(ブスプー)のように見えたことから転じて、下着のことを「ぼすぽう」と呼ぶようになったそう。

筆者の出身である四カ字(大川・登野城・石垣・新川)では尻尾のことを「ブー」とか「プー」とかいうのですが、ぼすぽう節を紹介したくて、コラムでは波照間の方言である「ブスプー」の方を採用しています。白保村は波照間島をはじめ様々な島から移住者を迎え栄えてきた歴史があり、四ケ字出身であった作曲者の宮良当演にも、「ぼすぽう」の響きは新鮮に感じられたのかもしれません。

さて、軽快な曲調と、ミヤラビ(女童:女の子のこと)と、ビラマ(男性の俗称)の掛け合いが楽しいぼすぽう節。歌詞の響きも魅力的で思わず口ずさんでしまうのですが、その内容はというと少し大人向け。この曲をふふふと笑ってあしらえるようになるのは時間がかかりそうです。まさに『タカワーナバワーバッシャリバーエーナルヌ』ですね。

 

→曲を聴いてみる:大工哲弘「ぼすぽう節」島々のうた3

 

 

筆者プロフィール
石黒愛(いしぐろ・あい)
石垣市登野城村出身。
名古屋にてバンド『テト・ペッテンソン』を結成。ベース・作曲を担当。
やいまぬむじか実行委員会の企画・庶務。音楽と自然が大好きです。

テト・ペッッテンソン
やいまぬむじか実行委員会