歴史に照らして専門家にも素人にもわかるこれ以上のものがあるだろうか(大城立裕)

八重山古典民謡とともに歩んだ波乱万丈の人生。
個人史から浮かびあがる近代八重山の民謡音楽史。

第一章は、新たな資料に基づいて書かれた長包の生涯を、第二章では新発掘の「嵐の歌/嵐の曲」や「宮良橋の歌」に関するものと、長包を抜擢した校長・和田喜八郎のこと、長包の最後を看取った元看護婦・屋嘉比富子さんの証言を収録。第三章は長包歌曲を支えた詩人たち(大浜信光、金城栄治、宮良高夫、泉国夕照、宮良高司、宮里静湖、北村重敬)を取り上げ、作詞の世界から長包歌曲へアプローチ。「宮良長包年譜」「宮良長包作品一覧」付。

月の光を浴びて輝く砂浜、夜の更けるのも知らないままに歌っていたあの日…… 
馬車に揺られながら稲刈りを終えるヨーンバイの道すがら、 
南天にさそり座が大きなハサミをふりかざしていた夏の日…… 
雨の滴を聞きながら淋しそうに歌った母の声…… 
初めて女性と歌を掛け合い緊張のあまり声が出なかった日…… 
殺伐とした都会で望郷の念にかられて親友と声を張り上げた日…… 
走馬灯のように蘇るとぅばらーまの思い出…… 
とぅばらーま歌は、いつも暮らしの中にあった。

書は「詩の国・歌の国」と言われる八重山芸能の内実と向き合い、その歴史、とくに沖縄本島・大和芸能との関わりを厳密な資料考証と精緻な聞き取りにより究明していく。