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[ レポート ] 音楽民族 + SESSIONS 2024

令和6年2月28日(水)石垣市民会館中ホールにて「令和5年度ユネスコ音楽創造都市ISHIGAKI推進フォーラム 音楽民族+SESSIONS 2024」が開催されました。

音楽民族+ SESSIONS 2023の様子はこちら

 

はじまりの歌で会場が繋がった「ウタイトーラ」ライブ

仲がいい友達やいつも一緒にいる仲間を意味するスマムニ「トーラ」。伊良皆誠、金城弘美、岡山創、比屋根祐(この日は体調不良のため欠席)による特別チームによるライブで開幕しました。

伊良皆さんと金城さんそれぞれの楽曲を披露した後は、この日の登壇者をステージ上に招き入れ、「こいなゆんた」を全員で合唱。客席からは手拍子だけでなく「またこーいな」と返しの囃子を口ずさむ人も多く、盛大なステージのでの開演となりました。

 

<Session 1 >地域の謡(うた)〜魅力の未来〜

昨年度の音楽民族+SESSIONS2023では、現代における八重山民謡の実情を流派の違いや歴史を遡ってのトークセッションが展開されました。第二回目となる今回では、流派などの組織や仕組みにより検証されている八重山民謡からさらに遡り、農業で暮らしを共にし自然への祈りや教えを「じらば」や「ゆんた」などと呼ばれるような歌として歌った、集落などの「地域」としての歌に注目しました。

パネリストとして、下記3名が登壇しました。

・大田 静男氏 (八重山芸能文化研究者)

・山根 頼子氏 (八重山資料研究会/新川古謡ユンタ保存会)

・登野城 吉宗氏 (石垣市青年団協議会/元大浜青年会)

(欠席:比屋根 祐氏 (八重山古典音楽大濵用能流保存会))

コーディネーターは、音楽創造都市石垣推進市民協議会事務局長の宮良正行と、同じく協議会メンバーであり、八重山古典音楽安室流協和会に所属する唄者の金城弘美の二人が務めました。

石垣島には40、竹富町には21、與那國には5つものたくさんの公民館が点在しています。

旗頭や獅子、棒術など同じように見えても各地域によって異なる独特な芸能が継承されているのです。

いしゃなぎら(大田氏)、新川(山根氏)、大浜(登野城氏)ということなる地域において、やはりどの地域も「継承」の大切さへの気づきはありながらも、都市化と共に進む公民館の存在意義希薄化などを理由に継承体制も衰退していくじらばやゆんたなどの地域の歌について歌だけでなく方言や伝統行事、芸能などの文化継承における明確で深刻的な問題が存在していると提起しました。

また、そんな中でも大浜公民館は、20〜30代の地域の若者発信から、古謡愛好会の活動が復活し、若者らしい今の時代にあったやり方での継承活動がさかんに行われていることや、その仕組みを支える公民館の組織体制があることの話も上がり、会場からも高く評価をされました。

終わりには、改めて文化継承の大切さを登壇者それぞれが訴え、また歌はかつての八重山の先人たちが残した資料であるという意見も出た中で、そんな大切な資料を人がいなくなるごとに失うことは非常に大きな損失だとし、今後も長く残る各地域の歌に関する各地域の資料作りをしようと違いに呼びかけると、会場からは賛同の拍手が鳴り響き、地域の歌をテーマにした第一部は終了しました。

 

元気な声が会場いっぱいに。八重山農林高校郷土芸能部によるステージ

Session 1が終わると、登場したのは八重山農林高校郷土芸能部の皆さん。八重山には三つの高校がありその全てに郷土芸能部が存在しています。全国高文祭の郷土芸能部門では全国大会常連校として活躍しています。

この日も地謡・踊りすべてを高校生が担い、会場を元気な掛け声と笑顔で賑わせてくれました。

 

 

<Session 2 >八重山唄者の世界~継承される謡(うた)文化の魅力と課題~

第二部では、一部でも軸となった「継承」をさらにメインテーマとして八重山民謡を音として発し生業のひとつとする唄者の世界について、唄者として活動する方々が登場しました。

パネリストとして、下記3名が登壇しました。

・大工 哲弘氏 (八重山唄者/八重山うた大哲会会主)

・伊良皆 誠氏 (ミュージシャン/音楽創造都市石垣推進市民協議会会長)

・岡山 創氏 (八重山古典音楽安室流保存会/音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバー)

コーディネーターは、音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバーのケンヤ・マルセイユと、一部に続き金城 弘美が務めました。

八重山唄者のレジェンドとして、世界各国でも活動を広く展開し続けてきた大工氏は、音楽民族ともあるように八重山はひとつの民族として確立していること、民族の魂として歌い続けてきたものが民族の歌であり、それはアメリカでいう「ブルース」だと述べました。歴史の中で黒人奴隷が生活や労働への苦しみや故郷への思いを歌ったワークソングとされるブルースは、彼らにとっての“憂鬱なため息”を歌ったもの。大工氏によると八重山民謡もこれと同じだとのこと。

八重山の長い歴史の中で、首里王府からの厳しい年貢の取り立てや明和の大津波、沖縄戦時のマラリア蔓延など人々が己の生活を大きく犠牲にして立ち向かえない困難が訪れ続ける日々も多くありました。そんな島の人々にとっての憂鬱が八重山の音楽だと述べ、また囃子との掛け合いもまた、ブルースでいうコール&レスポンスだとし、世界各国で演奏をしても馴染みやすいのだと大工氏は述べました。

BAGADA BANDのリーダーとして活動している伊良皆氏は、世界が音楽でひとつにつながったらいいなという音楽活動のきっかとなった思いに、違う国の人も体で感じてみんながコール&レスポンスができるような曲を、八重山の言葉で歌えたらどんなにいいのだろうかと、大工氏が提示する八重山の音楽がブルースのひとつだという意見に大きく賛同し、自身が音楽と向き合い続ける思いを語りました。

岡山氏は、現在私たちにとって「古謡」とされる歌たちも誰かが歌ったばかりの時は当時におけるポップソングだったのだと述べ、継承することやこれまで残されてきた歌に目を向けながらも、いつか古謡とされるような今の時代の歌を新たに生み出し残し続けていく重要性にを提言。会場にも共感の頷きが多く見られました。

ここでゲストとしてステージに呼ばれたのは、この数日後3月1日に八重山農林高校の卒業式を控えた若者の唄者として活躍する山田健太氏。

小さい頃から当たり前に芸能や祭り事が生活の身近なところにあり、小さい頃から芸能ワークショップに参加したり学校の郷土芸能部で活動したり、自身のCDをリリースするなど活発的に活動を行っている山田氏は、郷土芸能部の中でも歌や言葉の意味を知らずに活動している人がいて勿体無いと感じるということや横のつながりが希薄化していることなど、継承する立場の若手としての問題提起が話題となりました。

今度も八重山民謡唄者として活動しながら、卒業後は琉球民謡を専攻に沖縄本島に進学する山田氏に、八重山農林高校郷土芸能部創設者であり山田氏からするとOBとなる大工氏は、歌を紡いでいくことが島への思いを強め、また繋ぎ続けるということで生まれ故郷のこれからを作っていくと激励の言葉を述べました。

 

スペシャルライブ

ラストは大工哲弘氏によるスペシャルライブ。琴に大工苗子氏、笛に急遽岡山創氏が参加しライブを行いました。一部と二部のトークセッションを通して八重山の歌のこれからのことや、若者たちによって歌い繋がれる未来のことに想いを馳せつつ、また大工夫妻のライブの目玉シーンでもある奥様苗子氏とのテンポの良いトークの掛け合いなどに笑いも起きながら、聞き馴染みのある私たちにとっての「島の歌」に耳が喜ぶ時間となりました。

前回に続き、これまで横並びで語ることがなかった方達によるトークセッションとなった音楽民族+ SESSIONS。地域や世代の垣根を超えて、八重山の「音楽民族」であるという意識の上で見つめるこの島々の魅力を見つめ直す時間となりました。これをきっかけとして、八重山の音楽文化の今後における新たな展開が広がっていくのか楽しみです。

 

=====イベント概要=====

イベントタイトル:音楽民族+SESSIONS 2024

主催:石垣市(所管/企画部観光文化課)/音楽創造都市石垣推進市民協議会

日時:令和6年2月28日(水曜日)開場18:00/開演18:30/終演21:00予定

会場:石垣市民会館中ホール

入場無料

*プログラム*

◆Session 1.「地域の謡(うた)~魅力と未来~」

【パネリスト】

・大田 静男 (八重山芸能文化研究者)

・山根 頼子 (八重山資料研究会/新川古謡ユンタ保存会)

・登野城 吉宗 (石垣市青年団協議会/元大浜青年会)

・比屋根 祐 (八重山古典音楽大濵用能流保存会)

【コーディネーター】

・宮良 正行 (音楽創造都市石垣推進市民協議会事務局長)

・金城 弘美 (八重山古典音楽安室流協和会/音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバー)

 

◆八重山農林高校郷土芸能部ステージ

 

◆Session 2.「八重山唄者の世界~次世代へと紡ぐ魅力~」

【パネリスト】

・大工 哲弘 (八重山唄者/八重山うた大哲会会主)スペシャルゲスト

・伊良皆 誠 (ミュージシャン/音楽創造都市石垣推進市民協議会会長)

・岡山 創 (八重山古典音楽安室流保存会/音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバー)

・山田 健太 (八重山古典民謡保存会/沖縄県立八重山農林高等学校3年生)※途中登壇

 

【コーディネーター】

・ケンヤ・マルセイユ(音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバー)

・金城 弘美(八重山古典音楽安室流協和会/音楽創造都市石垣推進市民協議会メンバー)

 

◆大工哲弘スペシャルライブ